時事解説「トランプ大統領の米国はどこへ行くのか」<4>杉野綾子研究委員
AIとFERC
経団連総研研究委員(武蔵野大学法学部准教授)
杉野綾子
米国では現在、AIの急激な普及に伴い、データセンターの建設ラッシュが加熱している。
2020年代に入りAIブームが顕在化する以前に、米国の電力部門はすでに、電源構成の急激な変化に伴う電力供給の不安定化という課題を抱えていた。
背景には、シェール革命を契機とした安価なガス価格と再生可能電力の拡大に押されて、石炭火力や原子力発電所の稼働停止が相次いだことや、米国の送電網が老朽化し、かつ送電能力追加が十分に進まず、風力や太陽光といった間欠性(不安定)の電源増大や、電力需給の地理的分布の変化に対応しきれていない、という問題も指摘されていた。
そこに加えて、データセンターや仮想通貨マイニング等の部門で電力の大口需要が立ち上がっている。
OpenAI、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタなどテック大手各社は今後5年で電力消費量を倍増させる計画であり、データセンター向け電力需要が24年の33ギガワットから35年には最大176ギガワットまで増大する(デロイト社)、米国の電力需要が50年までに50%拡大する(全米電機工業会)など、さまざまな試算が発表されている。
特にデータセンターの立地が集中するのがテキサス州、およびバージニア州やオハイオ州等を含む地域送電機関「PJMインターコネクション」の管轄地域であり、25年7月に米国エネルギー情報局(Energy Information Administration、EIA)は、両地域での電力需要急拡大の見通しを公表している(図表参照)。

新規にデータセンターを建設しようとする場合、通常、事業主は電力会社に対し、電力供給、正確には、発電事業者との間の電力購入契約(PPA)と、発電事業者-送電事業者間および送電事業者~データセンター間の接続契約を申請することになる。
電力会社の側では、新たな需要に対応するため、例えばGeorgia Powerが25年7月に、保有する原子力発電所2カ所、ガス火力発電所1カ所の能力拡張と、石炭火力発電所2カ所の運転継続、最大4000メガワットの再生可能資源調達、1500メガワット以上の蓄電池追加を含む長期発電計画の承認を受けた(注1)。
Constellation Energyはデータセンター向け電力供給を目的として、19年に稼働停止したペンシルバニア州スリーマイル島原子力発電所1号機の稼働再開とメリーランド州カルバートクリフ原子力発電所の増設を計画している(注2)。
American Electric Powerは、25年10月に、データセンターや産業施設などの大口需要家による前例のない電力需要に対応するため、5年間の資本計画を従来の540億ドルから720億ドルに増額したと発表した。
追加投資の約半分が送電に振り向けられ(当初予定の送電線投資は70億ドル)、風力・太陽光発電への99億ドルの投資も含まれるという(注3)。
このように、発電能力拡大と送電網増強の両面で取り組みは進んでいるが、データセンター建設計画の増勢には追い付いていない。特に大規模負荷(需要)を送電系統に接続する際には、承認まで長い期間を要する。PJMエリアの場合、従来3~4年であったものが、最近では7年程度まで長期化しているとされる。
このため、データセンター開発企業のなかには、自前の発電設備をデータセンターに併設して建設しようとする動きも広がっている。
併設負荷(Co-located load)、すなわち発電所と送電系統の接続地点の背後(Behind the meter)に負荷を併設し、 併設された発電機から電力の供給を受ける方式だ。
この併設負荷を巡っては、PJMエリアで、併設契約に適用される託送料金・契約条件が用意されていないことから、卸電力市場と送電事業を監視する連邦エネルギー規制委員会(FERC)へ、事業者からの苦情申し立てがあり、25年2月以降、FERCによる併設負荷の適切な契約条件に関する検討が行われている。
冒頭に述べたとおり、以前から米国の電力システムには老朽化と送電能力の制約という課題が指摘されていた。トランプ大統領は17年の1期目の就任演説で大規模なインフラ刷新の必要性に言及し、バイデン政権も、就任直後の21年2月にテキサス州大停電を経験したことから、電力インフラの近代化を重点課題に掲げていた。
このため、21年に共和党議員の賛同も得て成立したインフラ投資雇用法には「電力網の近代化と拡大」の予算として、電力インフラの強靭化補助金110億ドルや、送電線建設円滑化のための施策、スマートグリッド投資促進補助金30億ドル等が盛り込まれた。
さらに、エネルギーインフラの建設に多大な時間と費用がかかる現状を改革すべく、議会上院では超党派議員によりEnergy Permitting Reform法案が提出された。
①国内エネルギー供給拡大のため内務省に連邦領の土地貸与拡大と許可期間延長、連邦許可の合理化を義務付けること②送電線建設における三つの主要な障壁(計画、許可、支払)に対処すること③許認可を巡る審査期間に150日の期限を設定すること――などが提案されたが、同法案は可決に至らず持ち越しとなった。
こうしたなかで起きたAIブームを念頭に、バイデン大統領は退任直前の25年1月に、AIデータセンターの電力供給確保に関する大統領令を発令した。
そこでは、①連邦の土地を貸与、データセンターと新たなクリーン電力施設を建設し、米国製半導体の購入を義務付けること②関係省庁は電力網への相互接続を促進し、許可を迅速に処理し、送電網整備を推進すること③送電事業者に対し、AIデータセンター向けに利用可能な発電容量、クリーン電力の開発計画と相互接続の機会に関する報告を義務付けるとともに、必要な送電網の更新を働きかけること④許可手続きの合理化、政府間の連携強化と既存の連邦施設の活用を通じて、環境および法定要件を遵守しながら、期限通りの完了を確保すること――などがうたわれていた。
電力需要増への対応を重視しつつも、使用する電力としてはあくまでクリーンエネルギーを優先し、気候変動を含む既存の(バイデン政権下で強化された)環境基準を順守することが前提だった。
25年1月20日のトランプ政権発足後、新たに就任したエネルギー省のクリス・ライト長官は、電力需要増大への対応方針として、「ベースロード電源とディスパッチ可能な電源の拡大に重点」を置くこと、すなわち原子力と火力発電を重視することを明言した。
さらに「ネットゼロ政策はエネルギーコストを上昇させ、エネルギーシステムの信頼性を脅かす」と政策転換を宣言した。
25年7月にはトランプ大統領が「データセンター建設の加速」「米国AI技術の世界的な普及拡大」「偏向的AIモデルへの対処」の三つの大統領令を発出した。
このうち「データセンター建設の加速」に向けて、①天然ガス、石炭、原子力、地熱の発電能力と、半導体、ネットワーク機器、データストレージ等の重要インフラ構築を推進②インフラ建設に当たり連邦領を活用するとともに、許可手続きを簡素化すること――が示された。
AI関連のこれら大統領令に先立ち、就任直後の25年1月に発出された大統領令「米国のエネルギーを解き放つ」では、連邦省庁に対し、「エネルギーに関連するすべての規制要件が明確に適用可能な法律に基づいていることを保証する」「国内エネルギー資源開発に潜在的に負担をかける全ての措置の即時見直す」ことが指示された。
具体的には、エネルギープロジェクトの許認可段階で国家環境政策法に基づいて義務付けられる環境影響評価について、同法には気候変動への言及がないにもかかわらず、民主党政権期に大統領府環境諮問委員会(CEQ)の指針に基づいて義務付けられてきた気候面の影響分析が廃止された。
トランプ大統領は第1次政権から一貫して石炭産業の復活を掲げており、17年にはエネルギー省がFERCに対し、閉鎖が相次ぐ石炭火力と原子力発電所向けの特別な卸電力料金設定を要請した。
これが電力市場参加者の反対で頓挫すると、18年にエネルギー省は、国家安全保障上の懸念が石炭支援を正当化すると主張したが、具体的な支援策は採られないうちに政権交代を迎えた。
第2次政権は、25年4月に大統領令「米国電力網の信頼性と安全性の強化」を発出し、①電力網は利用可能な全ての発電資源、特に長時間稼働が可能な安全かつ冗長性のある燃料供給を活用しなければならない②エネルギー長官は、公称出力50メガワットを超える発電資源の系統離脱または燃料転換が認定発電容量の純減につながる場合はその転換を防止する――と指示した。
実際に25年4月には、老朽化し、経済性要因で閉鎖が決まっていたミシガン州のJHキャンベル石炭発電所について、稼働継続を求める緊急命令(90日間、11月に2度目の延長)を行った。
命令の根拠として、政権側は連邦電力法第202条(c)に規定される「発電事業者に対し緊急事態に最も適切に対応する措置を講じるよう命じる」権限を挙げるが、不採算石炭火力の稼働延長については環境団体等からの反対に加え、州民からの費用負担への反発も起きた。
これに関してFERCは25年8月、発電事業者が、廃止予定だった発電所の運転継続を求めるエネルギー省の命令に従うための費用を、その発電所が供給している送電系統全体で回収することを承認した。
前述の併設負荷問題や発電所の費用負担問題等、重要な判断を求められているFERCは、組織上はエネルギー省の「附置機関」だが、議会により特定分野における規制権限を付与された「独立規制機関」であり、大統領の統帥権が排他的に及ぶ連邦省庁と異なる、高い独立性を付与されている(任期制の委員=コミッショナーの党派バランスや大統領による解任権の制限など)。
他方、独立規制機関に対してはレーガン以降の歴代政権が影響力強化を企図してきた歴史がある。
トランプ大統領は25年2月の大統領令「機関説明責任」において、①独立規制機関の活動を大統領府が大統領の政策および優先事項との整合性の観点から審査する②独立規制機関の長は、政策及び優先事項について政権と調整する③行政機関の職員は、大統領または司法長官の意見に反する法律の解釈を進めてはならない――等を通達した。
実際にFERCが個別の政策判断をどの程度政権の政策に沿わせていくのかは、個別のFERCオーダー(命令)に対する異議申立てと訴訟という形で明らかになろうが、連邦最高裁判所で目下審理中の大統領の解任権に係る訴訟が、独立規制機関の独立性の今後を示唆する重要判決として注目される。
(注1)Georgia Power Integrated Resource Plan(https://www.georgiapower.com/about/company/filings/irp.html)
(注2)World Nuclear News, ‟Constellation to restart Three Mile Island unit, powering Microsoft‟ 20 September 2024およびWorld Nuclear News, ‟Constellation considering doubling Calvert Cliffs nuclear capacity‟ 4 November 2025.スリーマイル島原子力発電所1号機の稼働再開には、今後、原子力規制委員会による安全審査を経て承認を受ける必要があるが、25年11月にエネルギー省は、同施設の稼働再開に向けた準備作業を支援するため10億ドルの融資を承認した(Nuclear net.org., ‟Constellation Secures $1 Billion Federal Loan For Three Mile Island Restart‟ 19 November 2025)
(注3)Utilitydive, ‟AEP expects to add 24 GW of load by 2030, mainly from data centers‟ Aug.1,2025.









